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取材中に何度も「使命」という言葉がでてきた。

ル・シェフ

お墨付き

 当時のタウン誌編集部は、いわゆるイメージ通りの世界だった。毎日バタバタ取材に追われて帰宅は遅くなり、入稿期間中は日付をまたぐことも一切珍しくなく、妙なハイテンションで乗り切っていた。3年続けてれば「まあまあ長く務めてるんだ」と言われるような仕事内容、明らかに普通ではない。体力的・精神的にきつい面もあったが、もともと人の話を聞く取材やインタビューに強く惹かれていた自分には天職だったのだろう。あれよあれよと月日は経ち、後輩に教える立場となった。まあまあ長い3年目の終わり頃、ひょんなことから終業後にまだ入社して半年のある後輩と飲みに行くことになった。確か「食べログ1位のお店に行ってみたい」というリクエストからトントン拍子で話が進んだように記憶しているが、金曜夜のそのお店は(当然ながら)常連客で満席。仕方なく近くのスペインバルに足を運んだが、予想以上にお酒も料理も充実していた。とりあえず生ハムとビールで乾杯。二人で飲むのは初めてだったが、自然と話は弾んだ。

 その後輩は不思議なキャクターだった。少しおっとりしているようで、誰に対してもハッキリとモノが言えて、それでいてどこか愛嬌がある。編集者としても独自の視点を持ち、取材は先輩社員の同行付きだったが、いつもユニークな質問と切り口で楽しませてくれた。マンネリ化しがちな特集の企画会議では、よくその場の空気をほぐしてくれたのが嬉かった。スペインバルでどんな話をしていたかは覚えていないが、恋愛話が盛り上がったような気もする。二人で〆のパエリアまで堪能。久しぶりに心地よい時間を過ごせた。

 シャッターの降りた商店街を歩いて帰る途中にも雑談が続き、何かのきっかけで、数日前にも同行した後輩との取材が話題となった。あのお店の店主はこうだった、あの質問は良かったとか話す中で、後輩はふと笑いながら、でもハッキリとこう言った。「いや本当に。藤本さんの取材って、他の人とは全然違うんですよ。同行していて分かるんです。だって取材してる相手の顔が、もう全然違うんです。だから、すごいんです」。だいぶお酒もまわっていたし、何気ない笑い話の中での会話だったが、この言葉はいつまで経っても頭に残り続けている。そして自分でも不思議だが、今でも仕事をする上での励みとなり、自信が持てなくなった時の支えにもなっている。かなり大袈裟に表現すると、お墨付きをもらえたような感覚、というか。そんなに付き合いの長い後輩でもないし、次の日には忘れているような他愛もない会話の中での言葉にも関わらず。なんだか、そう感じたなら確かにそうなんだろうと思わせる、淡いけれど確かな輪郭を持った説得力があった。

 その後、どうしても会社とそりが合わなかった後輩は次の年にキッパリと退職を申し出た(ちなみに事前の相談はなかったと思う)。自分も同じ時期、フリーランスのライター・インタビュアーとして独立することにしていたが、偶然にも退職日は同じ日となった。

Editing Data

Time:2017

Location:Nagasaki City, Nagasaki Prefecture

振り返っても、当時の自分に示唆の多い話だと感じる。そしてそのサラリーマンの男性は

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