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「喫茶店の良さは、たった一日や一回じゃ分からないよね」。

葡萄畑

真面目さの在り処

 「お前はさ、真面目すぎるとさ」。盛り上がった飲み会の席で、当時お世話になっていたひと回り年上の先輩からかけられた言葉。そんなことないですよ、と笑顔で返しつつ、モヤモヤした気持ちは解消しない。もちろん酔いがまわった状態だからこその単なる笑い話ではあるけど、直接的な言葉が的を射たように感じて、不思議と約十経ってもいまだに覚えている。

 そもそも、真面目とは何か(こんな問い自体が真面目な気もするが)。目標に向かってまっすぐ突き進むとか、地道に努力するとか、ずるをしないとか、笑いや冗談が通じないとか、いろんな意味がある。でもあの時、先輩が言いたかったことは、おそらく「見栄っ張りだ」ということではないか。「悪いところ、弱いところを人に見せないようにしている」。つまり、強がりだという意味が含まれた言葉。もしそうであれば、正直自分自身でも思い当たるところがある。自分をなるべく良く見せたい気持ちはあるし、昔から失敗を笑い話のネタに変えるのがひどく苦手だ。ミスはなるべくしたくないし、かっこ悪いところをわざわざ晒したくはない。

 反対にその先輩は、普段から全く見栄を張らない人だ。本当に恥ずかしげもなく、自分の情けない姿や弱点を晒す人だ。求められていない場面でも常に笑いを誘い、ギャグを飛ばす。カラオケで横入りしたり勝手にハモるのは当たり前だった(そして桑田佳祐のモノマネが十八番だったり)。そして、明るく飾らない人柄が常に周りから好かれていた。まるで小学校のクラスの人気者のように。

 そんな先輩に一度だけ、車で家まで送ってもらったことがある。モノがごちゃごちゃ乗せられた、真っ黒なオデッセイ。スピーカーから流れるBGMは、軽快な今どきの邦楽だったと思う。先輩の軽快なバカ話の合間に、その日はふと友人関係について聞かれた。当時は大学生で、挨拶する程度の友人なんて周りに溢れていたし、同じアパートの友人とも毎日のように遊んでいた。朝まで誰かの部屋でゲームをしたり、夏には駐車場でスイカ割りをしたり、今振り返ってもなかなか恵まれていたと思う。そうした話がひと段落ついた時に、ふっと先輩が話した。「そういう友達はさ、卒業後も自分から連絡して、大切にした方がよかよ。何もせんやったら、いつの間にか繋がりって途絶えるけんさ」。

 あんなに周囲に好かれて、みんなを笑わせている先輩からこぼれた言葉。世の中そんなものかなと、実感なんて湧かないまま聞いていたけれど、妙な説得力は感じていた。あれから十年。SNSを開けば、もう何年も会っていない友人の近況がサラリと流れる。もちろん、画面を指で弾くだけで分かることなんて限度がある。本当の意味での友人なんて、果たしてどれくらいいるだろう。

 あの時の先輩の、遠くを見つめる横顔。少しだけ寂しそうにしながら、頭の中でふっと思い出に行き当たり笑みが滲む横顔。アドバイスや助言ではなく、まるで自分に向けた反省のような言葉は、不思議な存在感があった。「お前はさ、真面目すぎるとさ」。冒頭のこの言葉を、先輩の車内での横顔を思い返しながら改めて見つめ直すと、少しだけ意味が違ってくるような気がする。「もっと肩の力を抜いていいんじゃないの」「遠慮せず、自分らしくすれば良いんだって」。先輩はそこまで考えていないかもしれないけど、そんな励ましの言葉にも思えてきた。相変わらず見栄っ張りだけど、今ならもう少しだけ、素直に受け止められる気がする。

Editing Data

Time:2015or2016

Location:Nagasaki City, Nagasaki Prefecture

「喫茶店の良さは、たった一日や一回じゃ分からないよね」。

葡萄畑

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