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他の場所と、どこか空気が違う。

武雄市山内町 黒髪山周辺

武雄市山内町 黒髪山周辺

他の場所とは、どこか空気が違う。体を通り抜ける風や木々のゆらめく音、やわらかな空気。そのどれもが穏やかに流れている。大げさに表現した訳でもなく、そんな風に自然と感じられたのはなぜだろう。その理由をなんとなく理解できたのは、黒髪山の人と自然にふれた後の、なんだか満たされた気持ちで歩く帰り道だった。
 伊万里や有田からもほど近い場所にある、武雄市山内町。そのシンボルのように悠々とそびえ立つのが、黒髪山だ。荒々しくむき出しになった岩肌と急な傾斜。かつて修行僧が訪れた修験の山としても知られている。そのふもとの黒髪山周辺にはうつわ職人が点在し、独自の工房を構えている。
 まず訪れたのは、美しい木立の先にある〈桃林窯〉。明るく居心地良いギャラリーに並ぶのは、一見無骨なうつわたち。しかしよく見てふれてみると、質感やフォルムなどから確かな個性が感じられる。元々大手メーカーでうつわの制作に携わっていた吉田さん。「自分にしかできないものを」と独立して工房を構えた。さらにカフェスペースでは、奥様によるレストラン顔負けの料理も吉田さんのうつわで供される。2人のあたたかなもてなしに、つい時間を忘れてしまいそうだった。
 次に訪れた〈いろえ工房〉は、真っ白なうつわに繊細かつ多彩な色絵を施す色絵師・鷹巣陽さんの作業場兼ギャラリー。花や植物、生き物、風景など、自然をモチーフに制作した色絵は、美しくもどこか生命のみずみずしさを感じさせる。また奇数月に開催される十日喫茶では、奥さまの華やかな手料理が予約制で振舞われる。工房のテラス正面には雄大な黒髪山。「この場所に刺激を受けてアイデアが生まれるんです」とおおらかに笑う鷹巣さん。自然体で穏やかな空気感をもった人だ。
 このように、単なる工房だけで終わらない窯元が多いのも黒髪山周辺の特徴だ。賑やかな和柄が特徴の〈房空路〉は、夜に日本酒とそば、おつまみを鮮やかなうつわとともに楽しめる。黒を基調とした存在感抜群のうつわが魅力的な〈閑古錐窯〉では、藁を使った建物を心地よいギャラリーとして開放している。どの窯元にも共通しているのは、うつわの魅力にふれてほしいという純粋な気持ちだ。そしてその想いがこちらにも伝わり、ついつい長居したくなるのかもしれない。
 人と自然にふれて実感した、空気が違う理由。それは、自然と人から感じる、余裕のある懐の深さだ。それは狭い場所で凝り固まっているものではなく、どこか外向きで明るいもの。自分だけの世界でうつわづくりに没頭するのではなく、あくまで開かれたもてなしの心が、この場所にはあふれている。

Editing Data

・取材メモ
取材日…9/29(金)
天候…晴れ
取材時間…4時間
来訪回数…4回目

印象に残ったのは、なんだかこちらも明るい気持ちになるようなとびっきりの笑顔

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